腕におそろいの輝きを。
「!起きろぃ!天気がいいからバザール行くぞ!!!」
「っ・・・・・。」
だから勝手に部屋に入らないでくださいよ・・・しかも朝。寝てたのに。寝起き・・・・。
という言葉を殺して、はまだ起きてぼーっとする頭で、布団に顔を隠していた。
「今日はどのへんに行くかねぇい〜。」
トルコは楽しそうに両開きの窓をバン!と開けて、テラスに出て窓から外を見ている。
「・・・・トルコさん・・・支度するから部屋の外に出て下さい・・・・。」
が布団から半分顔を出し、ジト目で言うと、
「・・・化粧なんかしなくても、お前さんは十分かわいいぜ。」
と、布団に手をつき、に顔を近づけると、
ぼそっとトルコはいい、
「じゃあ、リビングで待ってるからよぉ!」
にっこりとした笑顔でわしゃわしゃとの頭をなでると、
トルコはそう言い、ひらひらと手を振り、行ってしまった・・・。
「・・・・・・・。」
もうだいぶ慣れたが、一言付け足す、甘い囁きが余計だ。
と、ほんと恥ずかしいな・・・と、苦笑いしながらも、
そんなトルコの言葉は素直に嬉しいので、今日も機嫌よく、ベッドから出て、身支度をした。
「お待たせしました〜。」
ほどほどに急いで支度をし、リビングに行くと、
トルコがスマホとにらめっこしていた。
「おぅ!支度できたかぃ!」
「はい。」
トルコの言葉にが答えると、
「今日はひっさびさの休みだからなぁ〜!楽しいデートと行こうや!」
「・・・・・はい。」
別に付き合ってないんだけど・・・居候なんだけど・・・と、思いつつ、
はトルコが嬉しそうなので、黙っていた。
「朝飯も外で食うぞ!その後、ぶらぶら買い物でぃ!」
嬉しそうなトルコを見て、も何だか嬉しくなる。
そういえば、最近ずっと仕事だったな・・・と、思いながら、
とトルコは家を出た。
「今日はどこ行くんですか?」
もう慣れたが、今日も天気のよい青空を見上げてから、
は歩きながらトルコに問う。
「ん〜・・・それがよぉ、朝飯どこにすっかなーって、調べてたんだけどなかなかいい店なくてなぁ・・・。」
「どこでもいいですよ。」
まだスマホとにらめっこしているトルコに、はふふっと笑いながら言う。
「何食うかなー・・・何か食いてぇもんあるか?」
「んー・・・大体のトルコ名物は食べましたし・・・・あ、海見ながらサンドイッチ食べたいですね。のんびり。」
も素直に意見を言えるような関係になった二人。
がそう言うと、
「お!いいねぃ!んじゃ、いつものパン屋行くか!」
「はい!」
二人はそう言って、いきつけのパン屋へと向かった。
「お、トルコさん、おはよう!」
「おはよう!おっちゃん!」
大通りではなく、少し裏道に入った、小さなパン屋がトルコのお気に入りだ。
この店はだいぶ昔から何代も続けてやっているらしく、
トルコはここの味を気に入っていた。
「おはようございます。」
もう慣れたパン屋で主人にも挨拶すると、
「おはよう、今日もかわいいね、おじょうさん。」
挨拶と共にこういうことを言われるのはだいぶ慣れたが、
愛想笑いで返すしか、まだにはできない。苦笑いとも言う。
「サンドイッチもいいが・・・違うパンにするかねぇ・・・。」
「私もどれにしよー。」
まだ、トルコのパンは制覇したとは言えないので、
もトルコと一緒にパンを選ぶ。
「結局、二人共サンドイッチじゃねぇなぁ!」
海が見えるベンチに座って、手にそれぞれ選んだパンを持ちながら、トルコは苦笑しながら言った。
「そうなりましたね。おいしそうだったから・・・。」
「俺もあめぇもん食いたくなったしな!」
朝からトルコレベルの甘いパン・・・は、んんん・・と、目を閉じた。
「んじゃ、イタダキマス。」
とご飯を食べるときに、いつもトルコが言うその言葉を聞き、
もいただきます。と、パンを頬張った。
(んー!おいしー!)
焼き立てのパンは美味しい。
バターの香りが口を満たす。
カロリーは気にしないでおこう。と、青い空とかもめが飛ぶ海を見ながらは思う。
「あめーもんはうめーなー・・・。」
横ではパンをかじり、幸せそうに、しみじみとトルコが言う。
甘いものの食べ過ぎは・・・と、思ってから、トルコ達、国には、
人間的な病気も、死も関係ないことに気づいて、口をつぐんだ。
トルコが死ぬときは・・・この国がなくなるときだ。
そう思いながらなんとなく青い空をぼんやりと見つめる。
「ぼーっとしてっと、かもめに持ってかれるぞ。」
そう言われ、トルコを見ると、トルコはおかしそうに笑っていた。
は、笑い返したが・・・・心中は何だか複雑だった。
「さー!食ったしバザール行くか!」
二人分の紙袋をぐしゃりとして、トルコは立ち上がる。
「何買いにいくんですか?」
たったか歩き出したトルコについていきながら、は尋ねる。
「んー・・・?ひみつ。」
トルコは仮面越しににウインクした。
様になるなぁ・・・かっこいいわ。と、思いながら、
はトルコの後についていった。
そこは中規模なバザールだった。
奥へ奥へと入っていくが、店は続いていく。
「ここでぃ!」
トルコが足を止めたのは、
「・・・ナザールボンジュウ屋さん・・・ですか?」
きちんと扉のあるナザールボンジュウ屋さんだった。
かなり年季の入った店で、しかし、扉の横にあるガラス窓のディスプレイには、
色とりどりのとてもきれいなナザールボンジュウがいくつか綺麗に飾られていた。
「こんちはー。」
トルコは店へと入っていく。
も後に続いた。
「おや、トルコさんじゃないか。久しぶりだねぇ。」
年配のおじいさんが椅子から立ち上がり、トルコにそう話しかける。
「おやっさん・・・久しぶり。元気そうだな。」
トルコはなんだかしんみりと話す。
「おやっさんに選んでもらったナザールボンジュウ、まだつけてるぜい!」
そう言って、トルコは腕につけたナザールボンジュウを見せる。
「おやおや、まだ壊れずに現役だったかい。」
「ああ・・・。」
二人共嬉しそうに話していた。
「・・・・・。」
それを見ていたは、どうやら、昔、
トルコさんがここであのナザールボンジュウを買ったのか・・・。
かなり年月がたってるのかな?と、は思う。
「で、今日はそこのお嬢さんに、プレゼントかな?」
にこやかなおじいさんは、そう言ってを見た。
「え!」
驚いては声を出す。
「お、察しがいいねぇ。そうなんでい、こいつにナザールボンジュウをプレゼントしようと思ってねぇ!なんか見繕ってくれねぇかい?」
トルコはそう言い、ずいっとの背を押す。
「え!プレゼントって!」
戸惑ってトルコにそういうと、
「お前さん、ナザールボンジュウ持ってなかっただろい?買ってやろうと思ってな・・・ナザールボンジュウのことは知ってるかい?」
トルコにそう聞かれ、トルコに来てから、トルコ文化について色々調べていたので、
「はい・・・大体のことですけど・・・・。」
と、答えた。
「そうかい!なら話は早え!悪いこと・・・や、悪い虫を払ってもらえるように、ピンと来たの買いねぇ!」
トルコは嬉しそうに言う。
(悪い虫・・・)
と、は思いつつも、おじいさんがガラスケースの棚の上に出してくれるものを見る。
「え、これもナザールボンジュウなんですか?」
が興味を示したのは、金色の細いチェーンの中心に、
金色の平たい目玉マークがついたものだった。
「そうだよ。つけてみるかい?」
おじいさんに言われたが、
「い、いえ・・・高そうなので・・・。」
壊したら嫌だ・・・と、思い、断ったのだが、
「試すのは大丈夫だからどんどんつけろい!」
トルコさんに軽く背中を叩かれた。
「そうだよ。」
おじいさんも笑う。
「・・・じゃあ・・・。」
おじいさんが細いチェーンを持ってくれたので、手を出す。
「わぁ・・・エレガント。」
金のナザールボンジュウらしい物をつけ、思わずはつぶやいてしまう。
「細いきれいな手にあってるね。」
おじいさんはニコニコしながら言う。
「い・・・・ありがとうございます。」
いいえ!そんな!と、言いそうになって、素直にお礼を言った。
以前トルコに言われた言葉を思い出して。
しかし、そこでふと棚に置かれたガラス製のナザールボンジュウが目に入った。
「これ・・・綺麗ですね。」
ガラスの小さな丸い目玉の周りに。
金の細工と交互に青いガラスが続き、ブレスレットになっている。
「これかい?」
おじいさんは手にとって渡してくれる。
「わぁ!ガラスで綺麗!」
それはの心をいとめた。
「色も、いろいろあるよ。水色に赤、緑もね。」
おじいさんは次々出してくれる。
「わぁ!水色綺麗!でも、赤もかわいい・・・・。」
「ほぼこれに決まりだな。」
そんなに、トルコは言う。
「そうですね!何色にしよう・・・。」
がそうつぶやきながら考えていて、ふと、
「トルコさんのは・・・青ですよね?」
はトルコの方を見て聞く。
「ん?ああ。」
そう言って、トルコは年季の入った、しかし手入れを綺麗にされて、輝いている、
青のナザールボンジュウを、手を上げて見せてくれた。
「・・・・じゃあ、青にします!」
「!」
その言葉に、トルコは仮面の下で、少し目を開く。
「おそろいで。」
がトルコに微笑むと・・・・
「・・・・お前さんは!」
「わっ!」
なんとも言えない表情をして、にやけながら、トルコはの頭をわしゃわしゃと朝のようになでた。
「ちょ!トルコさん!髪ぐしゃぐしゃになります!」
そんなの言葉に、
「お前さんが悪い。」
トルコはそう言って、本当にこれでいいのか?と、に聞いた。
「・・・はい!青のおそろいのナザールボンジュウで!」
は手につけさせてもらい、にっこりと笑った。
きれー。と、言っているを見て、本当にこいつは・・・と、トルコは腰に手をおいて、ため息をついた。
「つけていくかい?」
おじいさんにそう問われ、
「あ、つけていっていいなら。」
と、は答えた。
「大丈夫だよ。」
おじいさんはニコニコしている。
「じゃあ、会計と、ちょっと話するからは外出てろい。扉のすぐ前にいろよ。」
「あ、はい!」
値段を見られないように配慮かな?それともおじいさんとなにか話があるのかな?
と、は思いながら店の外に出た。
「わー・・・ほんとに綺麗。」
手を上げて、太陽の日差しを浴びて、キラキラ輝くガラスの青いナザールボンジュウ。
本当に、本当に綺麗だった。
「おまたせさん。」
すると、トルコが店から出てきた。
「あ、プレゼントしてもらって、本当にありがとうございます!とっても綺麗です!」
は笑顔で言う。
「・・・いーってことよ。俺もいいもんもらったしな。」
トルコはほほえみながらの頭を優しく撫でる。
「・・・・・・。」
恥ずかしくてドキドキして、は黙って顔を下げた。
「さ!帰るかねぇ!」
ぽん!と、の頭に手をおいて、トルコはに言った。
「はい!」
の笑顔の返事を聞いて、腕にお揃いの青いナザールボンジュウをつけた二人は、
家へと帰るのだった・・・・。
終。
2021/10/28...