誕生日に想うこと。













それは、二人で朝食を食べている時の、もう何度目かの時だった。



「っ・・・あーー!またかい!」


トルコは苛立ちをあらわにしながら立ち上がると、玄関へと向かう。

(また、インターフォンなった・・・。)

はトルコが用意してくれたおいしい朝食をもぐもぐとほおばりながらそんなことを思う。


今日は朝からやたらインターフォンがなる。
そしてトルコが出て、玄関に行き、帰ってくると、
大きな荷物を何個も抱えて自室へと入っていく。

そんなことがもう三回くらい頻繁に続いている。


「はぁ!」


トルコは眉間にしわを寄せながら、大きなため息をついて戻ってきた。


「今日はなんだか宅配便が多いですね。どうしたんですか?」


なんとなく、はトルコに聞いた。


「ん?・・・あ〜〜・・・いや、ちょっとな・・・。」


すると、トルコは苦笑いをしながら誤魔化す。

「?」

が不思議に思っていると、

「さ!早く食っちまうぞ!今日は俺はでかけっからな!」

トルコはそう言って朝食を急かすのだった。


「・・・・・」


不思議に思いながらも、これ以上は突っ込んではいけない雰囲気だったので、
は聞くのをやめ、そのままもぐもぐと手と口を動かしたのだった。










ー!」


朝食の後片付けをすませ、国の世界の玄関でもある庭で洗濯物を干していると、
トルコの呼ぶ声が聞こえた。

はパタパタとかけて声のした方へ向かうと・・・・

「!」

「お、いたか。」

そこには初めて見る、いつものラフな格好からは想像もつかない、
上質な黒の燕尾服、シルクの黒地に光沢の模様のネクタイ、タイピン、コート。
いつもと違う髪型の、整えられた髪・・・そしていつもの仮面。

そんな、これからパーティーにでもでるかのような、
華やかな正装をしたトルコが玄関前に立っていた。

「・・・ト、トルコさん・・・・おでかけ・・ですか・・・・」

はにやけそうになる頬を必死で抑えて、冷静を装いながら言う。


「おう。これから、出かけてくる。」


トルコはこれまた上質な皮の靴を履くと、靴べらをトンと、しまう。


「帰りは遅くなるからな、先に寝てていいぞ。」

「・・・・はい・・・」

「・・・・・・」

少しうつむき加減に、視線を泳がせているを見て、トルコはにやりと笑う。
何もかもお見通しである。


「じゃあな、言ってくるぜぇ。」


トルコはそう言うと、の頭に手を乗せて、くしゃっと髪を撫でると、
顔を近づけて目を合わせ、にっと笑いながら低く甘い声で囁いた。


「!」


は真っ赤になり息を止める。

「はっはっはっ!じゃーなー!」

するとトルコはガチャっと扉を開け行ってしまった。


「っ〜〜〜!!!」


その後、はその場で、反則だ!ずるい!卑怯だ!!などとブツブツ言いながら、
真っ赤な顔を手で覆い、ぐるぐる回ったり地団駄踏みながら、
先ほどのカッコ良すぎるトルコに悶え苦しんだ。











その後、は、洗濯の続きや掃除などを気ままにしてその日を過ごし、
やることもなくなったので、庭のソファで本を読んでいた。

すると小さな足音が聞こえてくる・・・・。


(誰だろ。)


が本から顔を移し、起き上がって入口の鉄の柵の扉を見ていると。

「あ!北キプくん!」

「・・・おねえちゃん・・・」

そこに現れたのは小さな少年、北キプロスだった。


「どうしたの?トルコさんなら今、出かけてるんだけど・・・」

はそう言いながら、本をソファに置いて、北キプロスに近寄る。

「あ・・うん。それはわかってる。今日パーティーだろうから・・・」

北キプロスはいつものように、おとなしい、少しおどおどした感じで、話した。

「パーティー?」

は北キプロスの言葉に返す。

「うん。今日、トルコ誕生日・・・共和国記念日だから・・・。」


「・・・・・・・・・」


北キプロスの言葉に、目を見開く

「え・・・今日・・・誕生日・・なの?」

そして聞き返す。

「え・・あ、うん・・・誕生日っていうか・・・共和国になった日・・だから・・・。」

「・・・・・・・。」

言葉に詰まる・・・・。


「・・・・おねえちゃん?」


「え!あ、うん!ごめん!」


はハッとし、北キプロスに向かい合う。


「・・で、ぼくはパーティーにはいけないから・・・このプレゼント・・・渡してほしいんだ・・・。」


そう言って、北キプロスは、持っていた包みをに差し出す。

(あ〜・・・そうか・・北キプくんの立場っていろいろあれだもんね・・・・。)

はそんな事を思いながらそれを受け取る。

「うん。わかった。トルコさんに渡しとくね。」

「うん!ありがとう。おねえちゃん。」

北キプロスは嬉しそうに笑顔でほほえむ。


「あ、お茶でも飲んでく?」

「あ、ううん。いい。ぼくもいろいろやることあるから・・・。」

の誘いに、ごめんなさい。と謝る、北キプロス。
小さいのに大変なんだなぁ・・・と、思いながら、は笑顔で北キプロスを見送った。


そして、北キプロスから預かった包みをリビングのテーブルに置く


ここからが、問題だ。




(トルコさん!今日!誕生日だったの!?)



先ほど、北キプロスから知らされた情報に、はしゃがみこんで頭を抱える。


(なんで!?なんでトルコさん言ってくれないの!?
私の誕生日は前しつこく事前に聞いてきたくせに!!!)


そしてハッとする。

今朝、宅配便が多かったのはそのせいかと・・・。

そして、誤魔化されたのは誕生日のこと・・・・。


(なんでー!!なんで誤魔化すのーーー!!!)


後から知ったらこうなるじゃん!!と、は、ああああ!!と、
さらに頭を抱えた。


「どうしよう・・・・」


ポツリとつぶやく。

どうしようどうしようどうしよう・・・。


このまま知らなかったと、何もしないで過ごすこともできる・・・が、
後から知ってたとバレるとまずいし、自分的にもいやだ。

かと言って何ができるだろう・・・。

プレゼントを買いに行く・・・。

しかし、一人で街には出られない・・・。

明日以降改めて・・・いや、今日でなくては意味がない。


「うーん・・・・」


今、家でできること・・・・・。


「・・・・ケーキ・・・か?」


思いついたのは、無難にケーキを作ることだった。

しかし、甘いもの好きなトルコさんにはいいかもしれない。と、は思う。


(まぁ、材料があればだけど・・・何ケーキにしよう・・・トルコさん何ケーキ好きだっけ・・・。)


でも、手の込んだケーキ作れないしな〜・・・お菓子作り真面目にやっとけばよかった・・・。

などと、ぶつくさいいながら、キッチンへとは向かった。




キッチンで材料を確認したところ、小麦粉、卵、生クリームなど一通りの材料はあったので、
はどんなケーキを作るか、自室に戻り、以前、用意してもらったパソコンで、
レシピを見ていた。

「うーん・・・小さくていいんだけどなー・・・で、
ちょっと手がかかってるような・・・おしゃれな・・・・それでいて簡単で・・・」

ぶつくさ言いながらレシピサイトを見ていく。
だが、どんなケーキをみてもいまいちである。

(んー・・・なんかなー・・・なんか・・・・)

どんなケーキがいいかなー・・・と、考えていると・・・・

「ハッ!」

は目を見開いた。

(国旗!生クリームの上にトルコの国旗を描きたい!!!)

降りてきたー!!と、は一気にテンションが上がった。

そうだ!そうしよう!と、声に出し、
粉砂糖?できれば赤がいい!赤!?赤い粉砂糖ってあるの!?
とぶつぶついいながら、検索を始める。



検索の結果、ガトーショコラに粉砂糖で模様を描くということになったので、
は準備にとりかかった。

足りない物はいくつかあったが、そこは私利私欲に走らなければ
何でも出てくる長持ちに、お願いします!トルコさんの誕生日のためなんです!と、
お願いしたら出てきたので、なんとかなった。

トルコの帰りは夜遅いので、焦らず、ゆっくり、何度か失敗しながらも、
は一生懸命、トルコの国旗の描かれたガトーショコラ作りに励んだ。



「出来たーーー!!!」



そして、あっという間に夜は更け、
粉砂糖でトルコ国旗の描かかれたガトーショコラは完成した。

「で・・・できた・・・できた・・・・。」

は、泣きそうになりながらその場にへたり込む。
正直半泣きだ。
ケーキ作りに加え、型紙作り・・・三日月とか・・星とか・・・難易度高いですよトルコさん・・・と、
何度も心が折れそうになった。

「はぁー・・・・」

は時計を見る。
夜の9時を過ぎていた。

(帰り遅くてよかった。)

綺麗にデコレーションされたケーキを崩さないように、落とさないように、
リビングのテーブルの中央に置くと、よし!と、は頷き、後片付けを始める。

食事は、失敗作を食べたりで済んでいるし、あとはお風呂に入って寝るだけ・・・。

と、思いながらは洗い物をしていて、あ!と叫んだ。
慌ててまた、長持ちへと向かう。

戻ってきて手にしていたのは、一枚の綺麗な模様の描かれた紙だった。
そして慌てて自室へ向かうと、パソコンをつけ、パソコンとにらめっこをしながら、
そのカードに何かを慎重に書き込んでいく。

「よし!」

そして、満足そうに書き上げると、リビングへと戻り、ケーキのお皿のふちへ立てかけた。





(あー・・・疲れた・・・・。)


やりきったな・・・と、は思うと、エプロンのままケーキの置かれてある
テーブルの脇のソファへと、粉砂糖が飛ばないように静かに座った。
そして、身体を横たわす。

(少しだけ・・・少しだけ・・・・。)

そして、心地よさに身を任せ、静かに目を閉じた・・・・。









「はぁー・・・」


ガチャリと扉の開く音とため息が玄関に響く。

(おっと・・・寝てるから、静かにしねぇとな・・・)

少し乱れた髪の、いささか酔ったトルコは、玄関の扉を閉めようとして、
ふと気づき、静かに扉を閉める。

そして、上質なシルクで出来た、黒地に光沢の模様のネクタイを緩めると、
リビングの明かりがついていることに気づく。

(ん?起きてんのか?)

トルコは思わず時計を見る。
既に時計は午前2時近くになろうとしていた。

「・・・・・・・」

トルコが静かな足音でリビングへと向かうと・・・・


「・・・・・・・・」


そこには、煌々と光る明かりに照らされた、
白い粉砂糖でトルコ国旗の描かれたケーキと、
ケーキのふちに立てかけられた、一枚の綺麗な模様のカードに、
慣れない文字で書かれた『Dogum gunun kutlu olsun !』の文字・・・・。

そして、その傍らでエプロンをつけたまま眠る・・・の姿。


「・・・・・・」


トルコは、ふぅ・・・と、ため息をつきながら、嬉しそうにほほえみ、
ソファで眠るの横に座った。

「・・・・」

そして、の髪を手で梳き、口づけをする。


(おっさんだらけの政治パーティーは・・・まぁ、祝われて嬉しくはないが、
正直疲れる方が上だが・・・こいつぁ、嬉しいねぇい・・・・・。)


トルコはそんなことを思いながら、の頬をそっと撫でる。

そして、酔っていることもあり、ぼうっとしながら、物思いに耽る・・・・。



長い長い人生だ・・・・。

国だから人生というのはおかしいのかもしれない。


オスマン帝国からトルコ共和国になって。

早、100年弱・・・。

もう100年・・・。

だが、帝国時代を加えると・・・もう何年だろう・・・。


「・・・・・・・」


トルコの脳裏に様々な光景が鮮明にフラッシュバックする。


幼い日に見たあの背中。

華やかなあの時代の街の光景。

あいつが死んだ時の光景。

瀕死の時の苦しさ。


俺を助けて、生き延びさせてくれたあいつのこと・・・・。





(それで・・・こいつとも巡り会えたんだよなぁ・・・。)





そして今、こうしていられる・・・・。









「生きてて・・・よかったかもな・・・・。」






トルコはぽつりとつぶやいた。


「ん・・・」


が身じろぐ。

「ん・・・あ・・・・あれ・・・?・・トル・・コさん・・・?・・・あ!!!」

そしてガバッと起き上がった。

「あれ!?今!?今、何時ですか!!?あれ!!?おかえりなさい!!?」

そして慌てながらキョロキョロと時計を探していた。


「ふふ・・・」


そんなを見ながら、トルコはほほえむのだった。













Dogum gunun kutlu olsun !

















終。



2017/10/29...