最後には――
二人は・・・歩いていた。
手を繋ぎ、ゆっくりと、淡々と・・・・何を話すわけでもなく、黙ってただ歩く。
けれど、繋いだ手のひらで感じるぬくもりが、温かくて、心地よくて・・・・幸せだった。
たまに顔を見合わせ、微笑み合う。
トルコの緑がかった綺麗な瞳が細められ、自分を見つめる。
幸せだった・・・・
このままずっと、ずっとこのままで・・・・
と、思っていた。
そのまま歩いていると、石造りのアーチの前についた。
蔓草が巻きつき、崩れかけたそのアーチの所まで行くと、トルコがピタリと立ち止まる。
「どうしたんですか?」
と、が問うと、
「ここでお別れだ。」
と、トルコは言う。
するりと手が離れた。
「え?」
離れた手に感じる冷たさに、言いようのない不安を感じながら、
は、辛そうに微笑むトルコに、眉をひそめて聞き返す。
「ここから先は・・・俺は行けねぇ。」
トルコはそう言って、目を伏せた。
「・・・なんでですか・・・・・。」
「・・・・・・・・・・」
どこか悲しく、寂しいながらも、諦めたように穏やかで、
何かを達観しているかのような表情のトルコは、そのまま黙っていた。
「・・・じゃあ、私も行きません。トルコさんとここにいます。」
が眉間にしわを寄せそう言うと、
トルコは瞳を閉じ、静かに頭を振る。
「それは駄目だ・・・・。」
「・・・・・嫌です!私はここにいます!」
がそう言い、トルコの手を再度、ぎゅっと強く握ると、
「!」
カクンッと、膝が抜ける感覚がした。
足元を見ると、自分の足元だけ、真っ暗な底の見えない闇になっていた。
沼に沈んでいくかのように、ゆっくりと体が傾き、沈む・・・・
「・・・っ!トルコさん!!」
は握った手に力を込める。
「・・・・・ごめんな・・・」
しかし、トルコは辛そうな、泣き出しそうな表情で微笑み、手に力を込めず、
その手は、するりとほどけた。
「トルコさん!!!」
体が沈み、トルコの顔が、姿が、どんどん離れていく。
もがいても、地に足は着かず、空を切るばかり。
体は、どんどん沈んでいく。
「ごめんな・・・・・」
声が遠く、闇に沈んで・・・・トルコの姿は見えなくなった。
沈んだ先は、真っ暗な闇だった。
何もない、音も聞こえない、真っ暗な空間の中に浮いている。
顔を上げ、自分が沈んできた、ぽっかりと開いた
白く明るい穴をただ見つめていると、涙があふれてきた。
「っ・・・・・」
涙は雫となり、頬を伝う。
顔を歪ませ、白い穴を見つめる。
その穴は、どんどん小さくなり・・・やがて見えなくなった。
ひたすら、闇の中を沈んでいく。
涙がぼろぼろとこぼれ、しゃくりあげながら沈んでいく。
そのままどの位たっただろうか・・・・
涙も枯れ、ぼんやりとしていると、そっと、体が地についた。
しかし、辺りは変わらずの暗闇で、はその場で、ぼんやりとしながらただじっとしていると、
白く明るい光が視界に入り、はその光の方を見た。
前方に、上部が弧を描いた、扉のない入り口のような、白く明るい空間がある。
「・・・・・・・・・・」
はぼんやりとしながらその光の空間を見つめ・・・ゆっくりと立ち上がると、
一歩、一歩、ゆっくりとその光へと歩いていった。
そして、その白く明るいまぶしい世界へと・・・・消えてゆく――――――
終。
2012/11/02....