君と一緒の穏やかな日。













「おはようございます、トルコさん。」


それは、いつもと変わらない朝。


「おお、おはようさん。」


朝特有の、眩しい光が射し込む中、ソファで新聞を読んでいたトルコは、
の声に顔を上げると、にっこりと笑って答える。
といっても、いつものように白い仮面で顔半分を覆っているので、
目元と口元しか表情は分からない。
朝の日差しによって、仮面の白さはいつもより増す。

そんなトルコの仮面にも、はもうすっかり慣れてしまっていた。



さーて、飯食うか。というトルコの後に続き、二人で朝食の準備をする。

その日は、いつもとなんら変わりない日だった。
けれども、いつもとなんだか違うことにが気づいたのは、朝食を食べだして少ししてからのことだった。


ブッ、ブーっと、インターホンのブザーがなる。


「・・・・・はぁ・・・」

フォークで刺したオリーブを口に入れようとしていたトルコは、その音を聞き、
いささかうんざりした様子でため息を吐くと、テーブルに手をつき、立ち上がった。
そのまま、壁に備え付けてあるインターホンへと向かい、受話器を取ると、
二言、三言話して、玄関へと向かっていく。

(・・・またかな・・・?)

はトルコのもちもちとしたパンを口にほおばりながら、その後姿を見つめ、心の中でつぶやく。
案の定、トルコは2つ、3つ箱を抱えて戻ってきた。


(さっきから宅配便すごいなぁ・・・・)


朝食を食べだしてから、既に二件の宅配便業者が荷物を届けに来た。
これで三件目だ。
トルコは、よいせ・・・と言いながら、荷物を抱えなおすと、自室へと荷物を置きに行く。

はぁ〜・・・と、うんざりしたため息を吐きながら、戻ってきたトルコは再度、朝食の席に着いた。


「・・・・トルコさん、さっきから宅配便すごいですね。なにかあったんですか?」


そんなトルコに、はスープを飲もうとスプーンを握りながら、声をかけた。
気になったので、何の気なしに聞いてみたのだが、


「あ?ああー・・・今日、一応、誕生日だからな。」


「え!?」


帰ってきた言葉に、は目を見開き、思わず声を上げる。

「ん?」

いたって普通な様子で言ったトルコは、オリーブを刺したままのフォークを手に取り、を見る。


「今日、誕生日なんですか!?」


そんなトルコとは対照的に、はスプーンを握った手をテーブルに置くと、
慌てた、焦った様子で、少し大きい声でトルコに言った。


「ああー・・・まぁ、一応な。」


トルコは、そんなの様子を見て、少し困った様子で微笑む。


「す・・すいません!私、知らなくて!何も用意してないし、おめでとうも言わないで!!」


は、どどどうしよう!?とおろおろしながらトルコに言う。


「あー・・・まぁ、知らなかったんだからしょうがねぇだろい。気にすんな気にすんな。別になんもいらねぇよ。」


トルコはそんなを見て、やっぱりこうなったか。と、苦笑いした。

が今日、誕生日だと知ったとき、おそらくこうなるだろうな・・という予想はしていた。
だから、出来ることならば、誕生日ということを知られずにすめば・・・と、思ったのだが、
やはりそうは行かないらしい。

プレゼントやらなんやら、気を使わせるのが嫌だったのだ。


トルコは、今日を静かにと過ごせれば、それで良かった・・・・。




「で、でも・・・そうは行かないですよ・・・。」


はスプーンを握り締めたまま、どうしよう・・と、困ったような表情でトルコを見つめる。


「・・・・・・・・・」


そんな表情で見つめられると・・・・と、トルコは表面では薄く微笑んでいたが、
内心は、湧き出る欲望が渦を巻いていて、大変だった。

「・・・・・・・・・・」

どうしよう・・・と、考えているを見つめながら、トルコは少し黙り何かを考えた後、



「じゃあ・・・・お前さんをくれるかい?」



と、トルコは少し挑戦的に微笑みながらそう言った。

「・・・・・え?」

その言葉に、は瞬時に表情を凍らせる。


「「・・・・・・・・・・・」」


テーブルに肘をつき、手のひらに顎を乗せて、にっこりと微笑み、
見つめてくるトルコに、は硬直したまま、黙り込む。


「・・・・・・・・・」


そういえば、最近おとなしくなったので忘れていたが、以前トルコに好きだと言い寄られていたことを思い出す。
それらの光景を思い出して、うああああ。と徐々に顔を赤くし、が視線を泳がせていると、


「ブッ・・・!」


「!」


トルコが絶えかねたかのようにふきだした。


「アッハッハッ!へいへい、言ってみただけだからよ、気にすんな。」


トルコは笑いながら手をひらひらと振る。


「・・・・・・からかうのはやめてください・・・。」


そんなトルコの様子に、はなんだか腹が立って、この野郎・・・と思いながら、赤い顔で小さくつぶやく。


「からかっちゃいないぜ?お前さんがよければ俺はいつでも。」


と、言いながらトルコは笑顔で身を乗り出す。


「それは・・・・・とりあえず保留になったじゃないですか・・・・・。」


は視線をそらしながらその言葉に答える。

こんな素敵な異国の男性に言い寄られるのはとても嬉しいことだが、は色々考え、答えを保留にしていた。
トルコはそんなの心中を察し、わかった・・・と、それ以来、以前の様な激しいアプローチをやめてくれた。
でも、俺の気持ちは変わらねぇからな・・・。と、最後に付け足したのだが、
その時のことを、は思い出してしまい、余計、顔が赤くなりそうだった。


「はいよ。じゃ、この話しは終りだ。」


と、色々と過去の情景を思い出していると、トルコはパッとそう言い、オリーブをほおばる。


「・・・・・・・」


あ、とはやられた。と思った。

これで、誕生日についての話は終りにされてしまったのだ。
トルコの策略にまんまとはまったのだろうか・・・多分そうだな・・と、は小さくため息をつく。

「じゃあ・・・・・せめてこれだけは・・・」

と、は手に持っていたスプーンを置いて、両手を膝の上に乗せると、




「トルコさん・・・お誕生日おめでとうございます。」




と、言って、頭を下げた。

そして頭を上げると、ふふっと、満足げに微笑む。



「・・・・・・・・・・・」



そんなに、トルコはふっと少し困ったように笑い、



「アリガトウゴザイマス。」



と、トルコも両手を膝にのせ、頭を下げた。



そして、どちらからともなく、笑い出す。







そんな穏やかな、幸せな誕生日。













終。


2012/10/29....