君と出会う未来の為に―――
「……ハハッ…俺もとうとう終わりかねぇ……」
近くにあった赤茶けた岩に寄り掛かりながら、サディクは誰にともなくつぶやいた。
あれだけの栄華を極めた大帝国も、今はこの有様……
そして自分がいつ死ぬのか分からないのは、人も国も一緒で…
裂けるように痛み、軋み、息も浅くなってきたその身体で、自分の生死を決める戦いを少し遠くから眺めていた。
(まぁ……そこそこ楽しい人生だったわ…)
フッ…と、こんな時も何でも軽く流してしまう様な、余裕の笑みで微笑む。
「あー…身体が痛くてかなわねぇや……」
しかし珍しく愚痴の様なそんな言葉を吐きながら、青く高い空を仰ぎ、ひび割れ少し欠けた仮面を外す。
「…………」
スッと、風が肌に触れ、気持ちいい…と心が安らいだ。
顔にも焦りや不安、怒りなど…感情は特になく、ただ力無く、ぼうっと空を見つめていた。
「……………」
ズキンズキンと痛み、徐々に重くなっていく四肢が、自分の死が近い事を実感させる……。
(あいつ今頃……ちゃんと元の所で暮らしてっかねぇ……)
明るい太陽の日差しが行き通る空に、眼を細めながら思い出したのは…ある日突然出会ったの事。
「…………」
消えてしまう直前に、が言った言葉を思い出す。
『…サディクさんとは…必ずまた会えますから……
だから…どんな状況になっても……また会えるように、頑張って下さい!』
「………………」
あの時は、何を言ってるんだと思ってはいたが…その時の状勢もあり、
なんとなく感じとってはいたが……まるでこうなる事が分かっていたかのような言葉。
「……わかってたのかい…」
サディクはふふ…っと口元を歪めながら、一人ぽつりとつぶやいた。
必ずまた会えるから…どんな状況になっても頑張って。
「『必ず』…なら、頑張らなくてもいいじゃねぇか…」
サディクは重い右手を持ち上げて、眩しい空へ伸ばした。
「っ……」
ズキンッと痛みが走り、腕を止める。
「……………」
じっと陰になった自分の手の平を見つめ………
「頑張ったから……必ずまた会えるのかい……」
ふっ…と柔らかく、サディクは微笑んだ。
そしてゆっくり腕を下ろす。
「…しゃあねぇなぁ……」
そして再度、手に持っていた仮面をつけた。
「…………」
寿命にあらがう事は出来ないけれど、あがくことは出来る。
無意味かもしれないけれど……
「最後の悪あがきと、しゃれこみますか……」
サディクは歪んだ笑顔で痛みに耐え、身体を起こし、立ち上がった。
君と出会う、未来の為に――――
終。
2010/10/17....