ひまわり畑でこんにちは。













それはほんのちょっとした好奇心だった。


「・・・・この道って・・・どこに繋がってるんだろう・・・・。」


トルコは日本の家へ行く時だけ、一人で国側の世界での外出を許してくれた。
もう、3、4回、日本の家へ遊びに行っているは、
今日も漫画を貸してもらい、トルコの待つ家へ帰ろうと歩いていた時、
たしか以前、トルコとギリシャにこの道へは行くな。絶対に。と、言われた、
まだ見ぬ中国さんの家がある竹林を抜けて、
トルコの家まであと少しというところにある、脇道の前で立ち止まった。

「あ!なんかすごいひまわり咲いてる!」

じっと見つめていたは、道の先にひまわり畑があるのが見えて、
迂闊にその道へと進んだ。


「わ〜!きれいー!」


歩いていくと、道の両側に、たくさんのひまわりが咲いていた。

(この世界季節とか関係ないからな〜)

は少しおかしくてほほえみながら、立ち止まって自分の背丈を越す、
ひまわりを眺めていると・・・・

「こんにちは。」

ひんやりとした空気と共に、男の人の声がした。

「!」

は慌てて声のした方、道の先を見ると、
そこにはひまわり畑には似つかわしくない、
コートとマフラーをした、白髪のおっとりした感じの男性が、
にこにこしながら立っていた。

「あ!こ、こんにちは・・・・」


(ヤバイ・・・この人、国の人だよね?また会っちゃったー!トルコさんにどやされる!!)


は内心あせりながら、あいさつを返して半歩下がる。

「どうして逃げるの?ひまわり、きれいだよねー。」

男の人はニコニコしながらの横へとあっという間にやってきて、
ひまわりを見上げた。

「あ・・はい。」

(なんだ・・・なんかいい人ぽいな・・・まぁ、トルコさんに後で怒られるのは覚悟しよう。)

はそう思いながら、会話をする。

「ひまわり畑きれいですよね。通りがかったら見えたので、つい、道に入ってしまって・・・。
 ここはあなたの国ですか?すみません。」

頭を下げながらが言うと、

「ううん。気にしないで。ひまわりっていいよねー。僕、あったかいところで、
 ひまわり畑に囲まれて暮らすことが夢なんだー。もっともっと大きなひまわり畑にね。」

「そうなんですか・・・。」

このひまわり畑でも十分なのになぁ・・・と、思っていると、

「ねぇ、僕とともだちになってくれる?」

男の人はの手をにぎると突然、にこにことそんなことを言ってきた。

「え・・・あ、はい。」

手が冷たい・・・と、思いながらも、初対面の人だが、はそう答える。
の中で、危機感がじんわりとわいてきた。

「やったぁ!僕、寒いところで一人でさみしかったから、
 ともだちが増えて嬉しいな。あ、ねぇ、じゃあ今から遊びに来てよ!」

男性はの手をぎゅっと握り、道の先へ進もうとした。
というか、既にひきずられるような形で進んでいる。

「あ、いや!私もう帰らないと!」

何だか寒くなってきた。と、は思う。
周りの空気、気温がだ。

「だいじょうぶだよ。僕が後で連絡しといてあげるから。」

「え?」

その男性の言葉に、はまだ足を踏ん張り抵抗しながら、疑問の声を発する。


「キミでしょ?例の噂の、人間のちゃん。」


「え!」

はびっくりして叫んだ。

「トルコには後で僕から今日は泊まるね。って電話しておくから。僕の家へおいでよ。」

男性はるんるんと嬉しそうにをひきずってズンズンと歩いていく。

「え、あ、いや!困ります!!私、帰らないと!!」

この人は誰だ。どこの国の人だ。
中国とトルコの間?どこの国?国たくさんあるし。
いや、そんなことわかってもしかたない。
何か泊まるとかいう話になってるし!

などとかなりあせりながら、が思考を巡らせていると・・・・。


「あ、僕、ロシア。よろしくね。ちゃん。」


振り返って、名乗ってもないのにフルネームで呼ばれたことと、
ロシアと名乗る男性の笑顔に、はゾッと背中に冷水が流れたような気がした。

「あ・・・ロシアさん・・・だったんですね・・・。」

「うん!僕、ロシア。よろしくね。」

ロシアはズンズン歩いていく。

寒い。

寒い・・・と、は気温が下がっていくのを感じ、
これからのことと、ロシアの国の評判やら何やらを思い出して、
もっと寒くなった。



だから・・・絶対に、この道には入ってはいけなかったんだ・・・・。



(これヤバイよね?なんか絶対ヤバイ気がする!誰か・・・助けてトルコさん!)





「おーーーーい!!!」




求めていた声がした気がした。

はうしろを振り向く。


すると、猛ダッシュで駆けてくる人・・・・いや、国がいた。


「トルコさん!!!」

「よーー!!!ロシア!悪ぃな!うちの居候が迷惑かけちまったみてぇで!!!」


が叫ぶのと、ロシアとの狭い間に、トルコが滑るように入るのはほぼ同時だった。


「あれ〜?トルコなんで勝手にうちの敷地に入ってるのかな?」


ロシアはにこにことしながらも、の手は離さないで、
苦情のようなことを言っている。

「いやぁ!突然入ってきちまってすまねぇ!帰りが遅いうちの居候の姿が目に入ったんでな!
 迎えに来たんでぃ!」

トルコは必死そうにには見えた。

「うん、後で連絡しようと思ってたんだけど、僕の新しいともだちになったから、
 今日、家に招待しようと思ってたんだ。ちゃん。この子だよね?人間の例の噂の子。」

「あ、あ〜・・・そうだな。紹介する。なぜかこの世界にきちまった、
 人間の・・・・。」

トルコが、の両肩に手を置いて、紹介しようとすると、

「うん、ちゃんだよね。もう調べて知ってるよ。」

ロシアが言葉をはさんだ。

「あー・・・そうか・・・。」

調べて。という言葉に、はロシアに恐怖を感じた。

「というわけで、今日は僕の家に泊まるからよろしくね。」

すると、ロシアはすごい力でを引っ張った。

「うわっ!」

「おおおおおっと!!!それはちょっと!!今日は都合が悪くてなぁ!今度にしてくれねぇか!!」

トルコがを背後から抱きしめるように肩を掴んで、
それに抵抗したが・・・。


「・・・・トルコには関係ないよね?僕とちゃんで決めたんだから。」


にっこりと笑った笑顔は怖い。
もトルコも硬直しながら、その場に立ち尽くす。

(私泊まるなんて言ってないし!遊びに行くとも言ってない!!!)

と、は思いながらも、腕がもげるんじゃないかと思うほどロシアに引っ張られ、
腕の痛さに顔を歪ませる。

(なんなんだろうこの状況・・・何かトルコさんもはっきり言わないし、
いつもと感じが違う・・・そりゃ、私もあんまりよく知らないけど、あのロシア相手だけど・・・。
何か駆け引きしてる?ていうか腕が・・・腕が・・・・!)


「あの!ロシアさん!腕が痛いんで引っ張らないで下さい!!あと、離してください!」


の大声が、夕暮れのひまわり畑に響いた。


「あと、私、今日、泊まりになんて行きません!遊びに行くのは今度、日帰りでにして下さい!」


腕を強く引っ張るロシアに、はブチ切れた。
知らないということはおそろしい。

そんなを、大きな男二人が、きょとんとして見ている。

ロシアはを見つめた。その目はなんだかぐるぐるしていて異質な感じがした。
だが、はギッとキツめの視線でその瞳を見つめ返す。

「・・・・・・。」

すると、ロシアはパッと手を離した。

「じゃあ、今度日帰りで遊びに来てね。絶対だよ?」

にこにこと、ほがらかな表情に戻ったロシアは、そう言う。
やっと腕を離され、肩を押さえながら、は言葉を返す。

「はい、今度おじゃまします。」

「ふふふ・・・なんだか面白い子だね、トルコ。いーなー。僕のベッドに降ってきたらよかったのに。」

二人が、二人と日本だけしか確か知らないことをロシアが言ったので、
ぎょっとした顔をしていると・・・・。


「じゃあね、今日はこの辺で帰るよ。またね、ちゃん。」


ロシアは手を振り、上機嫌に帰っていった。


残されたとトルコは・・・・。



・・・とりあえず急いで家に帰るぞ・・・お説教はたんまりしてやっからな・・・。」

「はい・・・すみません・・・・ごめんなさい・・・・。」



バッとロシアに背中を向けると、こそこそと話しながら、
早足でひまわり畑を後にするべく歩き出した。



は帰宅後、トルコにロシアの恐ろしさをたんまりと聞いて、
自分の迂闊さと、していた行動にゾッとしたあと、
もう好奇心で行動する癖をやめようと、心に誓ったのだった。







終。



2021/08/06...