赤い月。













たまに現れる、赤い月。



あの強烈で、滲み落ちてくるかのような鮮やかな赤は、

昔、犠牲になった奴らが、俺が忘れないようにと・・・

その流した血で染め上げているのではないかと・・・そんな事を思ったりする。


自分達の存在を、俺の罪を・・・忘れさせないようにと、

定期的に赤く染めているのではないかと・・・そんな事を思ったりする。




流れた血は、数多。


計る事など出来るわけもなく、俺が完全に把握する事も出来ない。



昔は流れることが当たり前だった。俺だけじゃねぇ。



なんて言い訳をするつもりは、さらさらない。






若さつーのは恐ろしいもんで・・・


あの頃の俺は、自分がどんどん強く、大きくなるのが楽しくて・・・止まらなかった。


毎日毎日、戦いに明け暮れては・・勝って、上機嫌に酒をかっくらっていた。



自分の後ろに次々と溜まって行く・・・赤い悲しみになど、気付きもせず・・・。







だけど月日が経てば、周りの状況は変わり・・環境も変わり・・・。


ようやっと、自分の通ってきた後に積もっている物にも、気が付いた。



そして、自分も変わった。



年を取って落ち着いた。



つーのは気にくわねぇ言い方だが・・・まぁ、そういう事になるんだろう。


ふと思い出した記憶の光景に、ひでぇことをしたな・・・と、思うことなんてしょっちゅう。


今の俺が、当時の俺に会えるのなら、きっと力づくででも止めさせるだろう。



だけど、全ては後の祭。



もう全て過去で、今更悔やんでも、嘆いても、悩んでも・・・・悲しいが、仕方ねぇ。



今の俺に出来るのは、謝る事と、この赤い月を見続けて行く事くらい・・・・だろう。






「わぁ、月が赤いですねー。たまにありますよね、こういう月。」


「おわっ!・・なんでぇ、びっくりしたじゃねぇか。」


「あ、すみません。テラスにいたから何してるのかなと思って・・・月、見てたんですね。
チャイ淹れてきましたけど、飲みますか?」


「お、気が利くねぇ・・・・・・・あんがとよ。」





お前はチャイを受け取るこの手に、べっとりと罪の色がついている事を・・・まだ知らない。





この色が消える事は、永遠に、ない。



そしていつか、お前は俺のこの手が真っ赤に染まっている事を・・・知るのだろう。


その時、お前はどうする?



その後も、こうして一緒にチャイを飲んでくれるだろうか・・・・。



らしくもなく、少し、怖くなる。




そしてそれを願う事は、なんだか罪深く思えた。








「あ〜ぁ!年はとりたくねぇな!」


「えっ・・ど、どうしたんですか・・・急に。」


「・・・・なんでもねぇ。」



俺がそう言いながらを見ると、

彼女は少し困ったように、けれどおかしそうに、俺を見上げて笑っていた。










終。


2009/10/03....