短冊に願いを込めて。













「おーい!笹、取って来たぞー!」

玄関からジェットが大声で叫ぶ。
その声を聞いて、リビングにいたは嬉しそうに玄関へと駆けて行った。

「おかえり!わー!笹だ!笹だ!ありがとう!どこまで行ってきたの?」

「別にそんな遠くまで行ってねーよ・・・どこに置けばいいんだ?」

喜んで感謝を伝えるに、ジェットは少し嬉しくも照れながら、上機嫌ににそう問う。

「あ、リビングに持ってて!もう、準備出来てるから!」
「わーったよ」

ジェットはガサガサと笹の葉を揺らし、家の中へと入って行く。

「あ、おかえり」
「おかえりなさい」

リビングにはジョーやフランソワーズなど、皆が揃っていた。

「これ、どこに置けばいいんだ?」

ジェットが問う。

「ここに差すんだと。一生懸命作ったんだから壊さないでくれよ」
「そうアルよ!」

その問いに、グレートと張々湖が答えて朝から作っていた笹を置く台を指差した。

「はいよ。」

ジェットはその筒の中に笹を刺した。

「で?この笹どうするんだ?」

「明日七夕だから!皆で短冊に願い事書いて飾ろうと思って!他にも飾り朝から作ってたんだよ。」

は嬉しそうに言う。

「願い事ねぇ・・・オレは神なんて信じてねーけどな」

そう言いながらジェットは去ろうとする。

「・・・織姫と彦星は神様じゃないと思うけど・・・どうなんだろう・・・。」

「なんでもいーよ。オレは疲れたから部屋で寝るぜ。」

去ろうとするジェットに、

「あ、待って!これ短冊!明日の朝までに願い事書いて結んでおいてね!」

はジェットに駆け寄り短冊を渡した。

「・・・・へいへい」

めんどくさくなってきたので短冊を受け取ると、
ジェットはリビングを去った。

「・・・・・。」

そんなジェットの去った扉を見ながら、は押し付けているようで申し訳なく感じた。


どうしてがこんなに七夕で浮かれているのかと言うと・・・。



今がブラックゴーストとの戦いの、ほんの束の間の平和な時間だからだ。



もしかしたら明日、いや次の瞬間にはまた皆が戦いに行ってしまうかもしれない。
だから、せっかく季節の行事と平和な時間が重なったので、楽しみたいのだ。


来年は、皆そろって七夕を迎える事は出来ないかもしれないから・・・。


「じゃあ、飾り付けしよっか!」
「ワテはスオピン作るアルよ!他にも色々作るから楽しみにしててネ!」
「スオピン?」
「七夕に食べるワテの国の料理ネ!」
「あ〜そっか、七夕って元は中国から来たもんね・・・。」

そんな会話をしながら、皆で束の間の楽しい七夕前日を過ごした。





『今日の夜か明日の朝には結んでおいてね!』


と言われ、から皆に渡された短冊。

皆、部屋で短冊に向かい考える。

願い事・・・・。




翌日のまだ夜が明ける前。
はそーっとリビングに下りて来た。

どうせ見られるのだが、短冊に書いた願い事を見られたくなくて、
早めに起きてきたのだ。

しかし、笹を見て驚いた。
もう何枚も短冊が結ばれていたからだ。

(皆、ありがとう・・・。)

そう思いながら、は悪いと思いつつ、皆の短冊を見た。

「・・・・・・・。」

しかし、皆、母国語で書いていたのでには分からない内容ばかりだった。
英語はかろうじて分かるような分からないような・・・だが、
ドイツ語フランス語・・・等々はさっぱりだ。

しかし、ジョーが書いた短冊は日本語なのでわかった。


『世界が平和になりますように』


「・・・・・・。」


それは皆なら当たり前のことかもしれない。
世界が平和になるために戦う皆なら・・・・。


は少し眉を下げて微笑むと、
自分の短冊も笹に結びつけた。
そこには、


『世界が平和になりますように。』


と、ジョーと同じ言葉。
しかし裏側には・・・。


『皆がもう戦わなくてもいい世界になりますように・・・』


と、小さく書かれていた・・・。

「さて、二度寝するかな!」

はそうつぶやくと、リビングを出る。


ジョー以外のが読めない短冊の願い事も、
実は皆、


『世界が平和になりますように』


という願い事だと知らずに、は眠りについた。

ジェットだけは、『ブラックゴースト、ぶっ倒す!!』だったのだが。



その日の夜は、張々湖の美味しい料理を食べて楽しく過ごした。

そして次の日には、皆はまた、戦いへと行ってしまったのだった・・・。




世界が平和になるのは・・・いつになるのだろう・・・。


と、は雨がぶつかる窓越しに、空を見上げていた。








2024/07/07...