その力・・・。













記憶のない私・・・。

私は時折・・どうしようもない不安に駆られる時がある。






「・・・・・・・・・。」



そんな時は・・部屋に閉じこもり・・
布団をかぶりながら、窓から見える広く果てしない空と海を見つめる・・。

私には・・たくさんの大好きな家族がいるけど・・。
誰かに胸の不安を話すよりも・・。
この雄大な自然を見ていた方が癒される時もある・・。

なんてことを言っているが・・。
なんとなく自分が皆に話したくないだけだったりで・・。
大切だから・・言えない・・言いたくないこともあるわけで・・。


コンコンと、部屋のドアをノックする音が聞こえる。


・・入っても良いかい?」


でも・・部屋に閉じこもる私を放っておくような家族ではない。
ジョーの声が聞こえ・・今回はジョーか。と、私は溜息のような息を吐く。
私が閉じこもるたびに・・誰かが必ずやってくる・・それはランダムで。
それは心配という気持ちから来ているのはわかるし・・嬉しいが・・。
放っておいて欲しい時もある。
放っておいてくれれば・・私は何時も通り、
自分で一時的なカタをつけ、部屋から出るのだから・・。

だから・・私はいつも誰かが来て・・隣に座っても・・
私の心の内は・・何も言わなかった。


「どうぞ・・」


私は何時も通り部屋へ通す。
そして海と空を見つめる。


・・どうしたの?」


ジョーは優しい顔で微笑んだ。


「うーん・・また何時もの憂鬱かな。」


私は、ははは。と乾いた笑いをする。
誤魔化しているのは一目瞭然。

「・・・そう。」

ジョーは静かにベットの脇に座った。



「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」



静かな沈黙が流れる。

「・・・。」

私がチラッとジョーを見ると。

「・・・。」

ジョーはにこっと軟らかく、優しく微笑んだ。

その笑顔に、私は少し口を滑らせてしまった・・・。



「・・・ジョーは・・なんで自分がこんなめに・・て思ったことない・・・?」



「・・・・・・・・。」

ジョーは暫く考えこんだ後。


「・・あるさ・・何回・・何十回もね・・。」


そう静かにつぶやいた。
そりゃあるだろうな・・。
私よりもよっぽど辛い目にあっているし。
思わないはずはないのに・・。
私はそんなわかりきっている質問をジョーに問い掛けてしまった。
まぁ・・今情緒不安定な時だからね・・。
と私は言い訳を作る。


「最初の頃は・・何で僕が・・僕だけがこんなめに・・て・・。
それで・・ただ襲ってくるから生きる為に戦ってたんだ・・・。」


ジョーは淡々と語り始めた。


「けどね・・だんだん思ったんだ・・戦って・・色んな人に出会ったり・・
別れたりして・・このまま黒い幽霊団を放ってはおけない・・てね。
だから僕は・・自分のためもあるけど・・皆の為に戦い出したんだ・・。
そのころかな・・これが僕の運命だったんだって。
僕はこうなる為に生まれてきたんだって・・・思えるようになったのは。
何かの間違えじゃない。これが僕の運命なんだと受け止めることができたのは・・。」


これが私の運命。


「人にはそれぞれ役割がある・・ていう話しを前に聞いてね・・。
僕はこうなる為に・・この為に・・こんなこというの・・思い上がりかもしれないけど・・
皆の平和の為に・・生まれて来たのかなぁ・・って。」


ジョーはいつもの穏やかな顔。
その顔には優しさと冷たさの両方があった。


「大勢の人達の為に・・代わりに僕一人が戦えば良いんなら・・それにこしたことはないしね。
だから・・僕は戦うことにしたんだ・・。」


ジョーはそう言うと・・眼を伏せた。


「・・・・・・・。」



「なんて・・僕の勝手な思いこみにすぎないんだけどね。
でも・・そう思ってから・・僕は強くなれた気がするんだ・・。」


その言葉を聞いていたら、むかむかしてきた。


「・・・ジョーは・・知らない誰かの為に命を捨てるの・・?」



「・・・・・。」



「向こうからはなんの見返りもない。ジョーだけの一方通行で・・虚しくないの?」



そう思うのは当然だろう。




「・・・・誰かの為に・・ていうのも・・そんなに悪くないものだよ・・。」



なんだか泣けてきた。
自分との格の差を見たような気がして・・。



「・・・私の・・運命・・・。」


運命。これが私の運命だったのか。
そう割り切られれば良いけど・・・。
生憎、私はそこまで大人じゃない・・・。
割りきれないことがたくさんで。
頭の中をぐるぐるぐるぐる回り・・。
頭がおかしくなる。


ジョーのように・・私は割りきれない・・・大人じゃない・・そんなに大きい人じゃない。



「でもね・・。」


と、私が布団に縮こまっていると
ジョーが続けた。





「そんな風に思えるのは・・自分でそう思えた時だけなんだ。」




「・・・・・・・。」


「誰かにそんなこと言われて・・そうなんだ。って思えるものじゃない・・。
自分で思えなきゃ・・思えないんだ・・。」


ジョーは私の心を察したのだろうか・・・。
それとも、これは最初から言おうと思っていたことなのだろうか・・。






「・・・だから早くもそう思える日が来ると言いね。」








・・・・私の心はその言葉と、ジョーの優しい笑顔に救われた。








思い込みでも良い。

人の思いはとてつもない力を生むから・・・。














終。


2003/01/03....