夏の終り。













「あ!お祭り!!!」





もう夏が終わる・・されど残暑の厳しい夕方。
買い出しに出たは車の中から叫ぶ。


「祭り・・?」


そう、車にはハイン。


「どれー?」


そしてジェットが居た。
今回は三人で買い出しに出たのである。



車のガラス越しの向こうでは。
橙のちょうちんの明り露店の明りがともり。
人々がたくさんその明りへと向っていた。


「ねぇ!!行こうよ!」


はハインに聞く。

「あ〜・・もう帰らないとギルモア博士達が待ってるしな・・。」

ハインは渋る。

「今年まだ一度も祭り行ってないの!ちょっとだけ!ね!お願い!」

は必死に頼む。

「・・・俺も日本の祭り見てみたいな。」

と、そこでにぞっこんジェットはに肩入れする。


(!)

(へへ。)


そしての嬉しそうな顔に、笑顔で答えるジェット。



「・・・・しょうがないな・・少しだけだぞ。」



そう言うとハインはハンドルをきった。



「有難うハイン!!」



ハインもには甘かったりする。
それはジェット同様にぞっこんだからだ。








「わーい。」



そして車を止め。
露店の列に来て嬉しそうな



両脇に銀髪ドイツ人と赤毛アメリカ人を連れていて
かなり目立っている事など全く気にしていなかった。


それよりも・・・久々に来た祭りに心を踊らせる。







「ああ!!金魚すくい!!ヨーヨー釣り!!」



は露店を見て嬉しそうに叫ぶ。
そしてジェットはキョロキョロと辺りを見渡して・・。



「・・・なんか・・日本の祭りって地味だな・・。」



呟いた。



「う・・まぁね・・アメリカとかのお祭りに比べればね・・。」



ふっとは悲しそうに言う。


「あ!いや!これはこれで良いんだけどな!!」

の気分を下げ、焦るジェット。


(馬鹿が・・・。)


そしてそんなジェットを横目にハインはカバーする。



「俺は好きだけどな・・この雰囲気。」



「そう!?」


はぱっと明るくなる。



(・・・くそぅ・・。)

そんなを見てジェットは思わず歯軋りをした。




「あたしもね!この雰囲気大好きなの!!
ちょうちんや露店の明りがぼや〜っとしてて
なんだか夢見てるようで・・空気が楽しくて・・。
自分まで楽しくなってきて・・。」



は嬉しそうに微笑む。



「そうか・・・。」

「・・・・・・。」

そんなを見て、思わず二人も微笑む。




「お祭りって良いよね〜。」










そして露店を見ながら歩いていく三人。




(あ!)



は露店で売られていた
キラキラと祭りの明りで光る風鈴に眼を奪われ、
そして風鈴を手に取る。

(きれー・・・。)



「ねぇ!ジェット!ハイ・・ン・・・・・・。」



が話しかけた先に・・・二人の姿は無かった。




(うっわ・・はぐれちゃった・・・・・・?)




はどうしよう・・とその場に硬直する。
が。固まって居ても始まらない。
はまだ先に居るかも・・と歩き出した。



その頃の二人は・・・・。





・・・あ!?がいねぇ!!!!」


振り返り思わず叫ぶジェット。

「え?・・・。」

背の高い二人が辺りを見渡すが・・・。
らしき姿は無い・・・・・。


「どーすんだよ!はぐれちまったじゃねぇか!!」


ジェットはハインのせいでは無いのにハインに叫ぶ。


「・・お前の後ろにが居たんだろう・・まぁ良い。
そんな事より探すぞ。」


そう言うとハインは颯爽と人込みの中を走って行った。

「お、おう!」



そして一方は・・。







(あ〜〜・・・見つからなーい・・・・。)



目立つ上に二人一緒でかなり目立つはずなのだが
は二人を見付ける事は出来ていなかった。
それはこのたいそうな人混みのせいだろう。






そうしてが歩いていると祭りの主役。
神社の入り口。階段まで来てしまった。


階段にはちょうちんが点々と置かれ。
橙の光りが階段をか細く照らしている。


「・・・・・・・・・。」


そして階段には人がまったく居なかった。
それは、人が寄りつかなければ余計寄りつかないという事も有り。
皆、露店に夢中で本来の主役である神を忘れている事の証拠であった。

「・・・・・・・。」

そして何を思ったのか普通ならば暗く人が居なく
怖がって近寄らない階段をは上り始めた。





そしてそのまま社へ進み・・。







チャリン



パンパン







御参りをした。
それは何故かと言うと・・。



(困った時の神頼み!神様、私を二人と会わせてください〜〜!!)



こう言う訳でもあったりする。
そして・・誰も御参りしなかったら可哀相・・。
と言う心優しき気持ちも有った。



「さぁ〜てと。」



そしては階段を降りる。










「・・・・・・・・・うわっ。」









しかしそこで眼に飛び込んできたのは・・・。






白や黄色、橙に赤の、

露店や提灯の光りが作り出す。

一筋の明りの道。


その明りはぼんやりと・・。

儚く、霞んでいた。


暗闇に浮ぶその明りには眼を奪われ・・。


そこに腰を下ろした。





綺麗で・・儚くて・・。


決して濃くは無く・・何時まで見ていても物足りない・・だからずっと見て居たくなる・・。


そんな光りだった・・。





は時間を忘れ見入る・・・すると。







!」






名前を呼ばれたははっと前を見る。


「あ!ハイン!」


と、そこには階段を駆け登るハインの姿があった。


「・・・探したぞ・・・。」


ハインはいささかムッとしている。

「あはは・・ごめん。」

は笑いながら謝る。


「心配したんだぞ・・さ、行こう。」


そう言うとハインはに手を差し出す。



「あ・・!待って・・まだ・・ここに居て良い?」



は動きたくない。


「何でだ?」


当然ハインは聞き返す。





「見て。」




が指を指したのは階段の下・・。


祭りの明り。





「・・・ほう・・・これはこれは。」




ハインもその綺麗さに心を奪われたようだ。


「綺麗でしょ?もう少し・・見てようよ。」


「・・・そうだな・・。」


明りの綺麗さも半面、ジェット抜きで
と居られる・・と言う事も半面だろう。

ハインはの隣に腰を下ろした。



「あ・・ジェットも今頃探してるかな。」


は思い出したように言う。

「じゃあ降りた方が良いかな?」

「・・・まぁ・・大丈夫だろう。」

ハインは適当に答えた。
全てはと二人で居たい為。






ドーン






すると大きな音が鳴り・・。



「うっわぁ・・・。」



とハインの目の前に大きな花火が上がった。


「すっごいねー・・花火やるんだ・・ここ絶景ポイントじゃん。」



はうきうきな声で言う。

「ああ・・綺麗だな・・。」

ハインも少し嬉しそうに言う。


「他に人誰も居ないし・・皆気付いて無いんだね・・
この場所・・あは、穴場スポットだ。」


誰も知らない場所。
は秘密基地を作った子供のように嬉しそうに言った。








ドーンドーンといくつも上がる花火。









「・・ドイツにも・・・花火は有るの?」




はぽつり。と言う。




「ああ・・一応な・・だけど・・・俺の居た時代じゃ
滅多に打ち上げなかったし・・日本ほど綺麗でも無かったよ・・。」






「そっか・・・・。」








少し気まずい・・けれど自然な空気の中・・。










花火が上がる。




大きく開き。




大きく散る。











「!」





が不思議な空気の中、花火を見つめ続けていると
何回目かの花火の時。
ぽん・・とハインがの肩に寄りかかった。








「夏の夜は・・・人を感傷的にさせていかんな・・・・。」







ハインは呟く・・・。
声は小さく・・囁くように・・独り言のように・・。
そして少し震える声で・・・。


「・・・・・・・・・・。」


は花火を見つめる。








「・・・・私は側にいるから。」







「・・・・・。」

ハインがピクっと微かに動いた。








「ハインの側に・・ずっと・・ずっといるよ。」








「・・・・・。」










「・・・・・・・私の命が・・無くなるまで・・・・・。」









「・・・・・・・・ああ。」



ハインはの肩に寄りかかりそっと目を閉じる。






それは永遠じゃない・・。



の命が無くなるまでの期間。


されど・・・の全ての時間・・。


その時間を・・自分と居てくれる・・。


それだけで・・。




それだけで・・良い。



それだけでも・・十分・・・・。













「・・・・・・・・・。」




そんな二人を階段下の木の陰からジェットが見つめていた。



「・・・ちぇ・・・・。」













夏が終る。







終。


54545番を取られた鏡さんへ。



2002/08/29....