満月。
深夜。
は薄っすらと眼を開いた。
そこは見知らぬ天井。
その光景では今温泉に来ている事を思い出す。
「・・・・・・・。」
ス〜と、何処からか冷たい風が入って来る。
は起き上がり、その方向を向いた。
そこには・・窓の外で煙草を持ち、佇むハインの姿があった。
「・・・ハイン・・。」
「!・・・・起こしちまったか。」
のいきなりの出現にハインは驚きながら
起こしてしまった事をすまなそうに言う。
「・・何してるの?」
はまだ寝惚けた感じでハインに尋ねる。
「ん〜・・特に何もしてないさ・・。
ただ・・眼が覚めたから夜風にあたって
月を見ながら煙草を吸ってただけだ・・。」
そう言うとハインは煙草を持った手で上を合図する。
「月・・・・うわぁ・・。」
そこには黄金色に輝く大きな満月があった。
山奥の空気は澄み。
より一層、満月の色を引立たせている。
「綺麗だねぇ〜・・。」
は見惚れながら言う。
「ああ・・・。」
ハインのはいた煙が空へと昇る・・・・。
「・・・・・・・・・。」
そんな幻想的な光景を見ていると・・。
「なんか・・ずっとここに居たいね・・。」
は呟く。
「今までの・・嫌な事も・・辛い事も・・これからの事も・・。
全部忘れて・・・ずっとここに居たいね・・・。」
の眼は儚い。
「そうだな・・・だが・・・忘れていい事なんて・・・無いんだ・・。」
ハインは少し辛そうに苦笑しながらそう言った。
「・・・・・・・・・。」
「嫌な思い出も・・良い思い出も・・。
今の自分の糧となって・・今の自分を作っているんだ・・・。
それが無ければ・・今の自分は成立していない・・。
だから・・忘れて良いことなんて無いんだ・・・。
たとえ・・・辛い事でもな・・・・。」
「・・・そっか・・そうだね。
・・・・・・今の自分の材料だもんね!」
「・・材料・・まぁ・・そうだな。」
とハインは静かに微笑む。
時は・・静かに・・・だが確実に進む。
だから・・この一分一秒を大切にして・・。
未来へと進もう・・・。
明日の自分の糧にして・・・。
終。
2002/11/06....