いつか、きっと・・・。













「あ、いた!ジョー!!」


は、海岸の砂浜に座っているジョーを見つけると、
009、島村ジョーの名を呼んだ。


崖に建つ、みんなで住んでいる家から少し離れた海岸・・。
ジョーはそこから海を見つめている事が多い。

夕飯前に、姿を消したジョーを探しに出たは、
真っ先にそこに向かっていた。


「・・・・・・」

ジョーはよく、姿を消す。
というか、誰にも告げずに、ふらりとどこかへ行ってしまう。
特に、戦いから帰ってきた後・・・
そんな時は大抵ここにいる。


海の見える砂浜に座っている。





「・・・ジョー、やっぱりここにいた!夕飯できたよー。」

は、綺麗な色を発しながら沈んでいく太陽を見つめ、
砂浜に座っているジョーに近づくと、そう声をかけた。

「あ、ごめんごめん。」

ジョーはそう言いながら真横に立ったを見上げる。

「・・・・・・」

ジョーはいつもどこか悲しげな瞳をしている。

皆で楽しく笑っている時でも、ふっと、時折、その瞳に陰がよぎる。



「・・・・・夕陽、綺麗だねー。」

は自分を見上げていたジョーの横に自分も座ると、そう呟くように静かに言った。


しばし、波の音だけが二人の間に流れる。



「・・・今回も・・お疲れ様。」

は自分からその話題を切り出した。

「・・・・」

ジョーは、少し驚いた様な顔をすると、

「・・ありがとう・・・」

苦くそう微笑んだ。

「・・・・・・」

「・・・・・・」



「・・・・一番初めに・・」


二人の間にしばらくの沈黙が続くと、ジョーは突然、何かを語り出した。


「・・・一番初めに・・ね、僕が殺した人の事・・・今でも覚えてるんだ・・・・」


予期せぬ突然のジョーの言葉にはジョーを見て一瞬ピクッとした後、そのまま見つめていた。



「・・・あの時は・・脱出するのに精一杯で、無我夢中だったけど・・・
攻撃されて思わず銃を撃ったあの人・・・・僕が一番初めに殺した人。」


黙っているに、ジョーは独り言の様に淡々と続けた。

「来てた服、髪の色、顔・・・・そして、最期に僕を見つめたあの瞳。」

は、ただ聞くことしか出来なかった。
ジョーの言葉を聞いていると、何も言えない、出来ない、動けない。


「あの人も、僕達と同じ様に産まれて友達と遊んだりして育って、
僕が殺す前の晩まで食事をして・・・仲間と他愛もない話をして、
笑っていて、明日は休暇で何か約束があったのかもしれない・・・・だけど・・・」



「あの時の僕の一撃で・・・彼のその先は・・その先の日々はなくなった。」



「・・・・・・・」


は何も言えない。


「その後も、無我夢中だったから・・何人も何人もの人を殺したと思う。
でも・・・やらなきゃ僕が殺されてた・・・・でも、やっと落ち着いて・・・・
落ち着けて・・・寝ようとしたら・・・あの人が出てくるんだ。夢の中に。」

ジョーの顔は話す言葉と共に、徐々に、徐々に、下を向いて行く・・。

「何度も何度もうなされて飛び起きた・・・・今でも・・たまにある。
それでも、僕は・・自分が生きる為に、他の人が・・みんなが殺されない為に
戦わなきゃいけない・・・殺さなきゃいけない・・・・殺すんだ・・・・。」


ジョーは、砂浜の砂を握ると、手を少し上げ、サラサラと砂を手の中から落としていく。
そして、落ちるその砂を、あの瞳で見つめていた・・・。



「・・・・・・・・」

ジョーの瞳はいつも悲しい・・・
その理由が・・・少しだけ垣間見れた気がした・・








「ジョーは優しすぎる・・・」


ただ黙って話を聞いていたの、突然のそんな言葉にジョーは顔を上げを見た。



「・・優しすぎるから・・・・辛いね・・・」

は瞳に涙を溢れさせ、溢れて零れ落ちた涙を頬に伝わせながら、
それでも必死に涙をこらえつつ、微笑んでいた。


「・・・・・は・・・やっぱり優しいね・・・」

そんなを見て、ジョーは優しい優しい笑みを浮かべてそう言った。

「・・え、あ、あたし?」

は突然話が自分に移り、戸惑う。
そしてジョーは続けた。


「僕の為に・・・人の為に泣ける人は・・十分優しいよ・・。
それで・・・僕は、僕の為に泣いてくれた事が・・・凄く嬉しい。」


ジョーは、最後は少し俯き加減にそう言い、スッと顔を上げる。




「ありがとう。」




「・・・・・・・・」

は少し瞳を見開いたまま、ジョーの顔を見つめてしまう。

ジョーが、『ありがとう。』の言葉と一緒に向けた顔は・・表情は・・・笑顔は・・・・・


初めて見た、陰も曇りもない、優しい瞳の笑顔だった。







「さ、帰ろうか。皆に夕飯待たせて、怒られちゃうね。」

ジョーはポケットからハンカチを取り出し、はい。とに渡すと立ち上がり、
に手を差し出した。


「・・・うん!」
は、おさまった涙をふき取ると、ジョーの手を取り皆のいる家へと向かう。


「・・・・・・・」

しかし、少し前を歩くジョーの背中を見つめては思った。


ジョーはいつまでこの戦いを・・人を殺める苦しみを・・・続けなければならないんだろう・・・




「・・・・・・・」


は沈み切りそうな、光もか細い夕陽を見て思った・・・・願った。





どうか、どうか、一日も早く、この戦いが終わります様に。


早く皆が、心から笑って過ごせる日が来ます様に。



穏やかな日常が・・・・・








世界が平和に、なります様に・・・・












終。


08/11/19....